2021年度 春山合宿

  1. 日程:2022年3月7日〜3月12日
  2. 対象:北アルプス 爺ガ岳白沢天狗尾根〜鹿島槍ヶ岳
  3. 参加メンバー:4年 真道CL、田代SL、江口 3年 田中、小池 1年 壬生、岩波、鎌形
  4. 概要:
動画でより詳しく様子がわかります!

3/7
19:00部室集合〜22:00 出発〜23:05 バスタ新宿発

大学は閉門し早大生はまさに帰途に着く中、例によって浮世離れの体現者たる我々は、ひときわ目立つ巨大なザックを背中に担ぎ、帰りゆく学生たちの流れに逆らう様にして部室へと集結した。遂に春山合宿の始まりだ。集まるや否や団装の振り分けとテルモスの作成、パッキングを済ませる。必要最小限の荷物とありったけのやる気を詰め込んだザックは、過去最高レベルに重くなった。準備は万端。地下1階の部室から、2889mの頂きに向けて、いざ出発だ。バスタ新宿には、OBの高田さん、浅川さん、山賀コーチが見送りに来てくださった。夜遅くにも関わらずありがとうございます。皆さんから豪華な差し入れまで頂き、部員の士気は最高潮まで高まる。いろいろ話も尽きない所だが、バスの出発時刻が迫る。合宿成功と安全登山を誓い、部員はバスに乗り込んだ。23:05、我々を乗せたバスは、鹿島槍ヶ岳の待つ最終決戦の地、長野県大町市へと発進した。

さらばバスタ!

3/8 気温5℃  快晴
6:30 爺ヶ岳スキー場〜7:17スキー場終点〜9:50 1412mブナ分岐〜11:00 1650mTS〜14:50 偵察隊帰幕〜19:00 就寝

5時41分、信濃大町駅前。我々は一月前と同じ時刻、同じ場所に再び降り立った。しかし、以前よりも辺りは明るく空気も暖かなその場所の様子に、時は確実に流れていることが感じられた。駅舎の屋根からは融けた雪が水滴となって大地に降り注いでいる。長く厳しかった今年の冬の終わりも近い。そして、そんな春の訪れを前にして、過酷な冬を越えてきた我々の胸にも、少しの自信が芽生えていた。時の流れと共に己の成長を感じながら、山に入る準備を進めていく。6時にタクシーに乗り、爺ヶ岳スキー場で降りる。ビーコンチェックを済ませて隊列を組む。スキー場の隅からツボ足で入山する。100mほど上がり、天狗尾根の基部に到着。ここからワカンを履いて、脛下ラッセルとなる。思いの外積雪は少なく順調に高度を稼いでいく。黄色いヤッケに身を包む江口のラッセルは、皆から「ブルドーザー」と賞賛されるほどの活躍ぶりであった。ブナ尾根分岐では赤布を木に括り付けて尾根迷いの対策を施す。分岐から150mほど上がると尾根はやや細くなる。ここが栂の塔渡なのか。ここを抜けると尾根は再び広くなり、1650m幕営予定地に到着した。設営隊と偵察工作隊に分かれることにした。偵察隊メンバーに1年生の中から希望者を募ると、岩波が行きたいと率先して手を挙げた。いいぞ岩波。上級生への階段を昇る主体的な岩波の姿が見えた。偵察隊は田中、小池、岩波の3人に決定した。ラッセルをしながら白沢天狗山に向かう。想定では、第一FIX箇所は尾根から天狗山稜線上への乗り上げ地点としていた。しかし、尾根からダイレクトに登るルートには、キノコ雪のような大きな雪庇が形成されていて、全装で登攀することは難しそうであった。そこで、コル方面に向けて緩やかな斜面をトラバースし、雪庇のない箇所から稜線に復帰するルートを選択した。滑落の危険等は特にないので、FIXは張らなかった。その先、稜線上のコルへと下る部分では、立木に支点を取り10mほどの懸垂下降ロープを垂らした。この作業を終えて偵察隊は撤収。明日の行程が合宿の肝となりそうだ。夕食を終え直ぐに就寝した。

トラバース地点
コルへと下る

3/9 気温-10℃ 快晴
2:00起床〜4:00 出発〜6:30 天狗山コル〜8:00 小天狗岳の先1994m〜10:30 2205m〜12:00 p1 TS

この日も天気が良い。パッキングと撤収作業を済ませて、ワカンで行動を開始する。昨日の偵察隊のトレースのおかげで、明るくなる頃にはトラバース地点を通過した。その先の懸垂下降もスピーディにこなす。コルから小天狗岳へと上がる急登が、2つ目にFIXを想定していた箇所である。東側の斜面には岩肌が露わになっている部分があったが、西側は雪に覆われていて問題なく登れそうだ。小池が空身でリードし50mFIXした。鎌形が雪壁のクライムアップに少々苦戦するが、全体としてはそこまで通過に時間は掛からなかった。ここから緩やかな斜面を膝下ラッセルで突き進む。行動終盤で皆の顔には疲労の色が見えてきた。だが、白沢天狗の尾根は容赦ない。2205mから東尾根までの200mの斜面は勾配を一気に上げてきて畳み掛けてくる。最後の力を振り絞りラストスパート。東側は雪が硬くなっているので、なるべく西側の雪が柔らかくなっている樹林の中を登っていく。全員でのラッセルリレーの末、遂に東尾根とのジャンクションに辿り着いた。景色が一気に開けた。最初に目に飛び込んできたのは、爺ヶ岳だ。穏やかな春空の下、丸みを帯びたその山は、物腰柔らかに、既に頂きへのトレースを携えて我々の到着を待っていた。目下には東尾根や白沢天狗尾根、大町市街、の壮大な景色が広がっていた。優しく穏やかな爺ヶ岳の膝下は、安堵とくつろぎを与えてくれる、まさしく人里離れた爺の実家によく似た気持ちのいい空間であった。テントサイトを念入りに整備して本日の行動を終える。

コル~小天狗岳(下山時撮影)

3/10 気温-10℃ 快晴
3:45 起床〜5:00 出発〜6:00 爺ヶ岳〜8:00 冷池山荘〜10:40 鹿島槍ヶ岳南峰〜11:30 布引山〜12:45 冷池山荘〜15:00 爺ヶ岳〜16:00TS〜19:00就寝

2日間の荷揚げで田中が腰を痛めてしまい休養が欲しいということだったので、田中以外の7人でアタックに臨んだ。爺ヶ岳まではトレースを辿り快適なハイク。山頂に着くと東の空にはちょうど朝日が昇った。爺ヶ岳北峰を過ぎると、雪が硬くなったため、アイゼンに付け替えた。稜線の東側は大きな雪庇が形成されているので、西側の夏道上を歩いていく。赤岩尾根の分岐を過ぎると、鹿島槍ヶ岳が迫力ある姿を現す。巨大な積雪期の山を、真横からこんなにも間近で眺めることがなかったので、衝撃的な映像だった。こういうのを見ると、主稜線を縦走するのもいいが、やはり頂にダイレクトに突き上げるバリエーションルートへの登攀欲が掻き立てられるのは、私だけだろうか。鹿島槍のあまりのデカさに、錯覚を起こし、山頂までの距離感覚がおかしくなる。冷池山荘から鹿島槍までは近いようで長かった。冷池山荘周辺は樹林帯となるが、心配していたラッセルを強いられることはなかった。布引山あたりからは風が強まり、肌を出していると痛い。ひたすら歩みを進め、10時40分、鹿島槍ヶ岳南峰に登頂した。全員、終始元気であり、登頂の瞬間も喜びを露わにしていた。この1年間いろいろあったが、そんな険しい道のりの先にあった最高の頂でもあった。西には剱岳、北には五竜岳が見え、早くも新たな頂が我々を手招いている。どうやら登山ライフの稜線上にはエスケープルートは無いようだ。また次なる頂を目指して、登り続けていきたい。記念撮影をして下山を開始する。穏やかな空気の中で気が抜けそうになるが、集中して下りる。下山はさすがに疲労が見え、ペースが落ちたものの、問題なくテントに帰幕した。

やったー!長かった…

3/11 気温-5℃ 快晴
3:15起床〜4:30AC出発〜5:20爺ヶ岳〜6:20冷池山荘〜8:06鹿島槍ヶ岳〜9:20冷池山荘〜10:50爺ヶ岳〜11:20AC到着〜19:00就寝

3/10夕食時、田中から腰の具合が良くなったと知らされた。週間天気予報によると、あと2日間は快晴が見込まれるようなので、3/11の2次アタック実施を決定。3/10アタック時の所感として、田中に付き添う上級生の人数は1人で十分だと判断。田中に付き添う上級生には江口が立候補した。来たる3/11、田中、江口の新旧青ガッシャーコンビでAC出発。「江口さん、ガッシャー持たせてくださいよ」と語る田中は絶好調だ。鹿島槍ヶ岳山頂で2ショットをパチリ。AC到着まで終始良いペースで歩いた。ACに到着するや否や、防風壁の修復作業を行ってくれていたみんなからアツい歓迎を受けた。みなさん、お疲れさまでした。AC〜爺ヶ岳間はワカン、爺ヶ岳〜鹿島槍ヶ岳間はアイゼンを使った。休憩地点は、往路は冷池山荘の1点、復路は布引山山頂、冷池山荘の2点。休憩時間はそれぞれ10分程度。(文責:江口)

2次アタックしました!

気温上昇で風防壁の強度が低下し崩れやすくなっていたので停滞組で補強工事。就寝前に、風に備えて全ての張り綱を緊張させた。風脚は20時ごろから次第に強まる。夜中に何度か風防壁を修復して、テントを護った。

大町の夜景を眺める

3/12 気温-5℃ 快晴 風強い
3:00起床〜5:00出発〜8:30 白沢天狗山〜11:45 爺ヶ岳スキー場=下山

今朝は風の強い中の撤収作業となった。テントが飛ばされないように細心の注意を払う。最初はアイゼンを装着して下山を開始する。踏み抜きなどに注意しながら慎重に2205mまで下った。その先からは樹林帯となり風脚も弱まる。小休憩を挟んで小天狗岳へ。ピークからコルまでの、往路でfixを張った地点に、立木に捨て縄をかけて50mの懸垂下降。さらに天狗山への登りにも補助用にfixロープを10mは張った。天狗山以下の斜面は日当たりがよく、水気の多い腐った雪が足の自由を奪う。アイゼンでは足を取られて歩きにくいのでワカンに履き替えた。時折ツリーホールの餌食になりながらも、爺ヶ岳スキー場へと帰還した。スキー場では全員で肩を組んで写真を撮った。お疲れ様でした!

下山後スキー場にて
  • 総括
    まずは、全員で無事に山頂に立てたこと何よりも喜びたい。強化合宿よりも体力的、技術的に上級の内容であったが、強化合宿からまた一つ進化して、1年生も隊の戦力として活躍して、成し遂げた登頂だと感じている。今年度の当初の目標は剱岳の早月尾根を掲げていた。もちろん今でも皆で剱岳の頂に立ちたいという思いはある。しかしそれよりも、鎌形を含めて全員で一緒に登頂できたという点において、今回の春山合宿を鹿島槍ヶ岳で実施した価値は大きいと思うし、正解であったと思う。ずっと鎌形だけは特別な扱いを受けながら合宿を行ってきたが、今回は皆同じ内容で動くことができた。他二人との差は完全に無くなった訳ではないと思うが、その差は明らかに縮まり、山の中で対等に活動することができた。この経験は隊にとって間違いなく意義ある経験であった。剱岳なり何なりは、次の目標の一つとして、ここから皆で一緒に目指せばそれでいいと思う。
    1年生も初めて尽くしで時には怖い経験もあったと思うが、辞めずに1年間続けてくれてありがとう。現在の上級生の中で、1年目で春山合宿を経験できたのは真道ひとりであるから、1年生全員が春山の山頂に立てたことはぜひ誇りと自信にして欲しいし、みんなのこれからが楽しみである。壬生は、度々1年生チームの中心となって、1年生ながら周りを見て主導的な行動をしてくれていると思う。来年度は上級生として、その広い視野をさらに隊全体やリーダーへのサポート、1年生の指導・サポートに還元して、部に貢献していって欲しい。あと壬生の撮る写真はいつも対象や構図が綺麗なので、そのセンスを広報などにもぜひ生かしてもらいたい。岩波は、何事も好奇心を持って積極的に取り組んでくれている。1年生の中で一番山を楽しんでいると思う。そのオタク的な探究心とか主体的に楽しむ心は、何よりも成長の原動力になると思うので、上級生になっても大事にして欲しい。鎌形は、この1年間逆境続きだったと思うが、それでもめげずに努力を続けて、最後は冬山に登れるということを証明してくれた。この功績は、鎌形自身だけでなく、未来永劫の山岳部の活動の資産に間違いなくなると思う。それに、鎌形の几帳面な性格や常に改善を求める姿勢によって、新しい文化をもたらしてくれたと感じる。鎌形が部にもたらしてくれたものはとても大きいので、ぜひ胸を張って欲しい。そして、この先も男子2人を追い越す気概を持って努力していって欲しい。令和の女性主将になってくれることを私は期待している。1年生はこの1年で山を登る基礎的な技術は身につけた。「教えられる・登らされる登山」は一つここで終わった事になる。ここからさらに上級のクライマーになるためには、ただ単に「山に登りたい」という漠然とした目的意識から「あの山に登りたい」という明確な目標設定に移行する必要がある。技術を習得し自ら山に登る挑戦権は手にしている。そこに挑戦し現状維持で終わらせないかどうかは、自分なりの目標を見つけて自らそこに向かって動き出すかにかかっている。ただ、目標は待っていても見つかりはしない。自ら能動的に探す努力が必要だと私は思う。記録や本を読んだり、色々な山を見たり登ったり、難しいグレードに挑戦しクリアしてみたり。そういう新しい世界に果敢に飛び込んでいく姿勢が、新たな自分の価値観を見つけ、運命的な山との出会いをもたらしてくれると思う。そして、情熱を注げる目標を見つけてしまえば、そこに向かって努力するのは案外簡単になる。どんな困難も目標達成につながると思えるからだ。他の部のような大会もなく、絶対的な正解がない山岳部の活動だからこそ、自分なりの目標がなければ彷徨うことになる。しかし逆を返せば、自分なりのスタイルを見つけられる自由があり、どこまでも突き詰められる無限の可能性があるということでもある。ここからの3年間を下級生に教えるだけの活動にするのはもったいない。ぜひ登りたい山や好きな登山スタイルを見つけて、自分なりの山岳部ライフを楽しんで欲しい。
    また、上級生には本当に感謝したい。上級生みんなが、この忙しい時期に部のために動いてくれたおかげで、春山の実施と成功を実現することができた。誰かひとりでも欠けていたら実現できなかった。いろいろ大変な苦難もあったと思うが、協力してくれて、最後まで不甲斐ない僕についてきてくれてありがとう。田代と江口とは4年間で初めて3人一緒に春山の山頂に立てたのでとても嬉しかった。
    2021年度の春山合宿は終わったが、山岳部の活動は終わりではない。学年が上がり、新たな部員を迎えて新年度の活動がスタートする。来年度の目標は、斬新さや困難さ、何を求めてもいいと思うが、常に向上心を持って自分たちのやりたい登山に取り組んでくれたらと思う。また、どんな困難が待ち受けていても、今年度の経験を糧に諦めずに乗り越えていって欲しい。(文責:真道)