2021年度 残雪期合宿

1.対象:北アルプス 剱岳 早月尾根

2.日程:2021年5月2日~5月10日

3.参加メンバー:真道(4年CL)、田代(4年)、小池(3年)、田中(3年)

4.概要:

5月2日

18:30 部室集合〜21:30 部室出発〜24:25新宿発夜行バス乗車

 乗車予定のバスは深夜だったが、個装チェックと飲食店が緊急事態宣言下の営業時間短縮の関係で早めに集まった。個装チェックと団装振り分けがひと段落したところで、ラストオーダーギリギリの日高屋に駆け込み、各人安い麺類で腹を満たす。部室に戻りパッキングを再開。登攀具と食料でパンパンに膨れた巨大なガッシャーブルムが4峰出来上がる。余った時間は合宿中の天気の話もしながら適当に潰す。21:30に部室を出発。バスタ新宿には、緊急事態宣言でありながらも結構な人で混み合っていた。定刻通り高速バスに乗り込み富山駅に向かう。

眠すぎて眼つきの悪い新主将。

5月3日:気温:5℃ 天気:曇り一時雪・雷

6:30 富山駅〜7:00 タクシー〜8:10馬場島〜8:40 出発〜9:40 松尾平〜11:40 1550m地点〜14:10 1920m避難小屋跡設営〜18:00就寝

 6:30に高速バスは富山駅北口に到着した。前日に予約したジャンボタクシーに乗車するため南口に向かう。定刻通りタクシーに乗車し、登山口へ出発する。途中、車窓からは我々のターゲットとなる剱岳が遠くに屹然と聳えているのが見えた。出発から1時間ほどで馬場島荘の駐車場に到着した。手早く身支度を済ませる。暑くなりそうなので、ハードシェルは下のみ身につける。デポ品を茂みに残置し、ビーコンチェックを済ませ、いよいよ入山する。最初の登りは夏道であったが、松尾平に至ると雪が登山道に積もっていた。2ピッチ目で、予想されていた降雪はまだなかったが、雪解けの水滴で体が濡れるのを避けるため早めに雨具を着る。その後もほどよく締まった雪の上をつぼ足で進み順調に高度を上げていたが、1500m地点で夏道はほとんど雪に埋もれ勾配も上がってきたのでアイゼンを装着する。この辺りで田代のペースが次第に落ちてくると同時に、雹混じりの雪が降り始めた。できたら早月小屋まで行くことも考えていたが、当初の計画通り1920m地点で幕営することにした。テントを設営中、北の方から雷鳴が聞こえ一同ヒヤリとする。ただ、夕食を終える頃には雪も止み、夕日が田んぼの水面をオレンジ色に輝かせながら、西の空に沈んで行くのが見えた。高気圧の到来を確信し、明日に備え早めに寝床についた。

サンセットとDUNLOPV6が赤く共鳴し合う。

5月4日:気温:0℃ 天気:快晴微風

3:00 起床〜4:30 出発〜6:00早月小屋〜7:00 ルート工作隊出発〜7:45 2450 m〜8:30 2614m峰〜10:00 エボシ岩通過〜12:00 シシ頭のコル=ルート工作終了〜14:40 TS帰幕〜18:00 就寝

 3時に起床し、朝食とパッキングを済ませ、テントの外に出ると、朝ぼらけとなっていて既に辺りは明るい。空も雲ひとつない快晴である。4:30に幕営地を出発し、1時間ちょっとかけて早月小屋に到着する。小屋には既に5張テントが並んでいた。計画では2450mにACを張る予定であったが、明日は雨が降り風が強くなる予報であること、また、この重い全装を背負って上部のヤセ尾根を通過することを考えると、森林限界を越えて上にテントを張るのは幾分リスキーだと感じたので、ひとまず早月小屋に幕営することに決めた。テントの固定は田代に任せて、他3人はルート工作装備の準備をし、7時に出発した。40分ほどで2450m地点に着く。面積的には十分2張のテントを張れるが、風を遮る物は一切ないので、今回はできればここには幕営したくない。尾根迷いの可能性があったので赤旗を立て先に進む。そこから30分ほどヤセ尾根を辿っていくと、2614mのとんがりピークの基部に着いた。見ると、斜面をトラバースする経路と、上部の稜線をたどる経路に既にトレースが付いていた。今日通過する分には雪質的にもトラバースは問題なさそうだが、明日雨が降ることとアタック時に気温が上がることを想定すると、雪崩や上部雪庇の崩壊などへの警戒から、稜線上にフィックスを貼るのが無難だと判断した。稜線上は小さな雪庇が出ているが、南側を通過できそうである。ひとまず小池に様子見がてらロープを張らせに行く。結局、登りとリッジ上に合計40m fixを張った。支点は全てスノーバーで取った。

野生の2614mトンガリピークが現われた。小池崇仁、君に決めた!

その後残置ロープのある急登を通過して、2700m地点エボシ岩の雪壁の取り付きに到着した。開始支点はピナクルにスリングで取り、田中にリードを頼む。灌木やハイマツが豊富でランナーには困らない。50mのfixを設置した。しかし、残り5mほどのクライムアップがやや怖かったので、帰り際にfixを伸ばすことにした。その後は2900mシシ頭まで問題のない登りが続く。2800mに赤旗を1本立てた。先行の7人パーティーがシシ頭下降のため渋滞を作っているので、休憩がてら15分ほど待機する。先行パーティーはリッジをトラバースし岩の露出した斜面をコルへとクライムダウンする経路をとっていたが、どうやらロープを残置するようなので、我々は池ノ谷側に10mクライムダウンしその後コルへとトラバースするルートを選択した。幸い雪はよく締まっているので雪崩の危険は無さそうだ。トラバースもトレース跡なのか平らになっていて通過しやすい。明日の雨で支点が弱らないように、硬い雪の層にスノーバーを刺し支点を取った。先行パーティーがカニのハサミとルンゼを通過するのを拝見しつつ、この先のルートを観察しておく。ここからは1時間弱で山頂に行けそうだ。時刻は12時であったので、計画通りfix工作はここで終了しテントに戻ることにした。途中、先述の2700mのfixを延長するため、一旦懸垂下降で降り、余ったfixロープを引き連れながら登り返した。Fixはスノーバーで固定した。その後もfix通過をしつつ、14:40に帰幕した。タイム的にも問題なさそうなので、早月小屋をそのままACとすることにした。

5月5日:気温:5℃ 天気:曇り後雨、強風

5:00 起床〜停滞〜18:00就寝

 この日は前日の段階で低気圧が接近するようであったので、停滞日と決めていた。ただ、朝のうちは雨が降っていなかったので、テントの周りの壁を高くして来たる嵐に備えた。前日泊まっていたパーティーも下山し、テントサイトに滞在しているのは我々だけになった。7時くらいから雨が降り風も強くなって来た。雨はそこまで降っていないが、風が結構強い。12時頃に強風のピークを迎えて、時折テントが大きく揺れる。午後にかけて風雨は次第に弱まり、テントもノーダメージで耐え忍んだ。

5月6日:気温:0℃ 天気:快晴微風

3:15起床〜4:45 出発〜6:25 2614m峰〜8:40 カニのハサミのルンゼ取り付き〜9:40 山頂〜10:00下山開始〜2900m地点懸垂30m〜2800m地点懸垂下降50m〜2700m地点懸垂下降50m〜2550m地点懸垂下降30m〜15:40TS帰幕〜19:00 就寝

 前日の雨は夜中に降り止み、外の状況は快晴無風であった。先日の天気を踏まえてこの日のアタックは妥当であるか全員で議論した。雨で前日のトレースは消えていたが雪は締まっており、表層雪崩の心配はなさそうである。明日以降また天気が崩れるとの情報もあることから、ひとまず2614m峰のfix地点まで行ってみることにした。小屋から2500mまでは雪が溶け所々ハイマツが出ていた。2550m地点に着くと左側の斜面にルート工作時にはなかったスノーボールが転がっていた。通過する尾根上も融雪が進み雪の乗りが悪く、スタンスが不安定そうであったので1ピッチロープを出した。2614mに着くと、こちらも雪崩にはなってないもののトラーバス面にはスノーボールが転がっていた。上部の雪庇も崩壊はしていない。支点の強度も落ちてなさそうだが、一応逐次ランナーの強度を評価しながら、そのままfixを利用して稜線上を通過した。

前日の降雨でスノーボールが転がる斜面。

2700m fix地点に向かう途中、工作時同様尾根上をすすむが、雪が溶けて地表面や氷が露出しているいやらしい箇所があった。ロープを出すタイミングを既に逃していたので、残置ロープを掴みながら通過する。2700mの雪壁は帰りは懸垂下降で降ることとし、ランナーを回収する。シシ頭から下降するfix上のルート上は、この地点は気温も高くなく風も割と吹いていて雪は腐っておらず、支点も工作時のまましっかりしているので、そのままfixを通過する。その後すぐ、カニのハサミのトラバースは一応ロープを出してみるが、スタンスも安定していて問題なさそうなので、帰りはノーロープで良さそうだ。

みんなが思う。カニの「ハサミ」とは。教えて林修。

最後のルンゼに取り付きにつく。小池リードで50mロープを出した。ルート上は氷化していてアイゼンの前爪を効かせながら上がっていく。終了点にはボルトが打ってあった。ルンゼを抜けると別山尾根との合流点に立つポールが見える。10分ほど稜線を歩いていくと山頂に到着した。山頂に着くと、西の方から県警の「つるぎ」が轟音を立て旋回しながらこちらに向かってくる。パトロール飛行のようだ。登頂時はクールだった田代が興奮気味にカメラを回し撮影していた。

ルンゼの終了点より田代隊員が、はい、ひょっこりはん。
The road to the summit of Mt.Tsurugi.

記念撮影をおえたところで下山を開始する。ルンゼで50m懸垂下降。シシ頭はfix通過。2900m地点で30m懸垂下降。2800mで50m懸垂下降。2700m雪壁で50m懸垂下降。2614m峰に向かう箇所は往きは稜線上を通ったが、帰りは斜面を50mロープを出してトラバースする。2614m峰は fix通過。2550m地点は30m懸垂下降。各箇所、回収組と設置組を上手く分けて効率化を図った。15:40にTSに到着した。美しい夕日を眺めながら登頂の余韻に浸る。18時ごろ就寝した。

被写モデルが決めてんのに、カメラマン下手くそかよ。

5月7日:気温:3℃ 天気:曇り

4:30起床〜6:00 撤収〜9:00 馬場島=下山

 午後から小雨が降るようであったので午前中に下まで降りることを目標に下山を開始する。1600mで尾根が分岐したので地図を見て下降路を確認する。1500m辺りで夏道の通過や藪漕ぎがだんだんと増えてくる。1200m地点で雪はほとんどなくなり、アイゼンを外した。9時ごろ「試練と憧れ」の石碑前に到着した。

試練は山。憧れは下界。

 タクシーを待っている間に警備隊の派出所に、ご挨拶と下山報告のため4人で立ち寄る。帰り際にカップ麺をくださり、ご厚意に感謝しながら美味しく頂いた。タクシーで上市駅へ向かい、温泉で汗を流した。お疲れ様でした。

美味すぎた。感謝!!

5.総括:

 この1ヶ月間コロナや天候に振り回されながらも、なんとか当初の計画通り早月尾根での合宿の実施に漕ぎ着け、剱岳の頂を踏み新体制初の合宿にて成功を納められたことはとても喜ばしいし、何よりも隊として大きな自信になったのは間違いない。

 春山で課題として浮上したコミュニケーション不足だが、今合宿はメンバーが同年代ということもあり準備期間から積極的に議論を交わしコミュニケーションを取れていたように思う。今後は新たに加わる1年生の意見も汲み上げられるコミュニケーション環境を築けるように努めて行こう。

 また、「ロープを出すかの判断基準が低いのではないか」との春山合宿でのご指摘を踏まえて、春山合宿を見据えながら少し迷ったら安全サイドでロープを張ることを意識した。結果的にロープは必要なかったと感じる箇所があった一方で、出しておいても良かったとの意見が出た箇所もあった。今後一年生も加わりロープの判断をよりシビアに求められることを考えると、隊を率いる側として、上級生一人一人がルート上のあらゆるリスクを客観的に評価できる目を持つことの重要性は高まる。これからも継続して知識と経験値を蓄えていきたい。

 新3年生は、リサーチ段階から主体性を持って今合宿に取り組んでいた。小池は、発案者ということもあり特にモチベーション高く参加していて心強かった。田中は今合宿もムードメーカーとしての役割は大きく、おかげで合宿中は終始明るい雰囲気であった。田代は、真道の同期として批判的な立場から意見を出し健全な判断を下すのに寄与していたし、僕の心の支えとしてとても心強い存在であった。

 主将個人としての課題は、判断力と決断力。判断のバリエーションがまだまだ少ないなと感じる。準備段階にしても、行動時にしても。今回で言えば、テントサイトの判断。計画時の2400m地点から早月小屋に変えたが、準備段階から想定しておけば、より余裕を持った行動ができたはずだ。更に言えば、検討会でもご指摘頂いた、1920mでのAC設営も選択肢の一つとして考えるべきであった。風雨が強ければ、その方がより安全なのは間違いない。天気、地形、コースタイム、隊の実力。先を見通す想像力と山をマクロな視点で見るメタ認知力が適切な判断には必要だ。勉強と経験。インプットとアウトプットを繰り返し、学ぶしかない。そして決断力。隊のリーダーとして行動の最終決定権は自分にある。メンバーの意見をまとめ上げ、自信を持って確固たる意思の元に強い決断ができるか。今回は条件に恵まれたが、もし雪が降っていたら、低気圧の勢力がもっと強かったら、撤退というシビアな決断を下せていたか。アタックしたいという気持ちに忖度せずに適切な決断を下せたか。集団だからと言って必ずしも適切な行動を選択できるとは限らない。集団である分、意思決定までの過程において心理的な要因によるプロセス・ロスが発生する可能性は高まる。主観に左右されず、客観的な決断力、そして、メンバーを動かす説得力がもっと必要だ。

 最後に、今後の合宿には1年生が加わる。1年生が山行に加われば雰囲気はガラッと変わるだろう。3人も入ってくれた1年生を大切に育てていくためにも、今後の山行では各人が上級生としての振る舞いを意識していこう。

追伸:今回の残雪期合宿の様子はYouTubeの山岳部チャンネルにも動画をアップしました!!なかなかの出来だと自負しております笑。ぜひご覧ください。今後も随時動画などを配信していきますので、チャンネル登録もよろしくお願いします。

文責:真道