2019年度残雪期合宿

対象:北アルプス中南部縦走(薬師岳、黒部五郎岳、鷲羽岳、野口五郎岳)

期間:2019年4月26日~5月4日

参加メンバー:浅川(4年CL)、小野(3年SL)、中島(4年)、真道(2年)、田代(2年)

概要:

① 4月26日 11:00部室集合~12:10部室出発~13:30下落合バス停発~20:00富山駅~22:00就寝

当初夜行バスを用いて富山駅までアプローチする予定であったが、さすがGW前日ということもあり残席がほとんど残っていないため昼行バスを選択。バス出発の時間が夜行バスに比して早いため、前日までにパッキング等を終了させ、翌日使用のテルモスだけを沸かし部室を出発。富山駅到着後、夕食をとり就寝。

② 4月27日 5:30電鉄富山~6:45立山駅~8:50室堂~10:30一ノ越~11:50TS

  夜行バスに比べ快適な睡眠を得ることができ爽やかな目覚めであったが、外は生憎の雨。電鉄富山駅へと向かうと悪天候のためアルペンルートが動かない可能性があると伝えられるが、ひとまず始発電車は出発するようなので立山駅行快速列車に乗車する。悪天候の予報のためだろうかGW初日にもかかわらず電車内には空席が目立つ。立山駅に到着すると遅延はしたもののアルペンルートは運航する模様。ケーブルカーとバスに揺られ、室堂に至ると電鉄富山での空席が嘘のように人であふれかえっていた。山にはこんなに人が集まるにもかかわらずどうして山岳部に人が集まらないのか。バスターミナルにて準備を整えたのち出発。室堂-一の越間では多少のガスと降雪があるものの十分行動可能であったが、一の越から先に進むと厳冬期と見紛う暴風雪に変化。とても行動を続けられる天候ではなくなったため 龍王岳手前に幕営し行動終了。

③ 4月28日 3:30起床~5:20TS発~8:00獅子岳~10:30五色が原~13:00鳶山~15:00越中沢岳直下TS

朝起きると前日のテントを叩く猛吹雪は穏やかな微風に変わっていた。テントから出ると下界より少しばかり黒みがかった青色が一面に出迎えてくれたが温度計は―16℃を示している。残雪期であることを忘れてしまいそうだ。歩き始めると、龍王岳、鬼岳は稜線上が厳しい岩稜となっているため夏道通りに龍王岳は西面、鬼岳は東面を巻く。幸いともに傾斜は強くなく、雪も締まっているためロープを出す必要はない。その後、獅子岳の頂上より見下ろすとザラ峠への下りでは夏道が雪で埋まっているため、横の雪のついた斜面を下る。峠より五色が原へと登ると急激に気温が上がり始め、雪が緩む。数歩に一度、アイゼンについた雪を叩き落とし、太陽光を容赦なく照り返す雪面を睨み返しながら鳶山へと登る。ようやく登り終えたと思うも束の間、下りでは急斜面に加え雪が緩んでいるためスリップに怯えつつ慎重に下る。最低コル付近はひどい踏み抜きに悩まされ、とてもテントを張れる状態ではないため、50 mほど越中沢岳方面へ登った平坦地に幕営。テントに入り一息つくと顔がじりじりとした火照りを帯びている。どうやら雪面との睨み合いには敗北したようだ。

能登半島、サンピラー、最高の天場だ。

④ 4月29日 3:00起床~4:50TS発~6:00越中沢岳~9:30スゴの頭~12:00スゴ乗越小屋~15:00間山TS

 前日同様気持ちの良い好天であり気温も低くない。晴れやかな気分で幕営地を出発する。越中沢岳への登りはアイゼンのよく利く雪の斜面であり夏道のコースタイム通り順調に進む。しかし一転山頂から下り始めると雪の急斜面と岩稜を交えた稜線となっており慎重を要す。雪の急斜面は上級生が2年生の下に入り、クライムダウンで慎重に下る。その後現れた岩場に雪の付いたの急な下りで1ピッチfixを行う。鈍重な我々と対照的に先行した単独行者は岩間を縫って軽快に下っていく。隊の未成熟を思い知らされた瞬間であった。コルに降り立ちスゴの頭への登りに転じると、気温が上がり始め緩んだ雪による激しい踏み抜きに悩まされる。薬師岳越えを予定していたが地図を見る限り間山を越えると薬師岳山荘付近に幕営するほかなく、隊の体力状況と時間を鑑みて薬師越えを断念し間山山頂付近に幕営し行動を終える。幕営を終えたあたりから徐々に風が強まり出した。

越中沢岳山頂から進むべき薬師岳を望む。

⑤ 4月30日 3:00起床~7:00TS発~8:00撤退~9:00幕営(停滞)

5:00出発を予定していたが強風と視界不良のため出発を後らせる。風の弱まった頃を見計らいテントを撤収し出発。しかし幕営地から登るにつれ急激に風が強まり始め、100 mほど登り顕著な稜線に出たあたりで直立できないほどの暴風となり、これ以上稜線上を歩くのは危険と判断し引き返す。その後前日幕営した地点から直線距離で500mほど薬師岳方向に進んだ場所に再度幕営。薬師岳を安全に越えられるであろう11時をタイムリミットとして風が弱まるのを待つ。しかし、その後風は多少弱まったものの一度暴風にさらされ疲弊した体でこの状態の薬師岳を越えるのは困難とし停滞を決定。日没付近になると風も吹き止み、翌日の薬師岳越えを期待する。

⑥ 5月1日 3:00起床~4:30TS発~8:30薬師岳~11:00太郎山~13:30北ノ俣岳直下TS

 前日とは打って変わって静かな朝であった。夜半に雨が降ったようであり、気温も高いため出発時すでに雪がぐずぐずに緩んでいた。小雨の降る中登り始めると、北薬師岳手前の2832mピークまでは雪が豊富についており快適に登ることができたが、当ピークから薬師岳山頂では夏道が多く出ており大岩の重なり合った登山道に多少の雪が付いた厄介な稜線歩きとなった。悪天候の予兆だろうか霧の中からガアガアと雷鳥の鳴き声が聞こえてくる。薬師岳山頂に至るも雨により視界はないため登頂の余韻に浸る間もなく素早く薬師岳山荘まで下る。避難小屋から分岐する東南尾根に迷い込まないよう注意が必要だ。薬師岳山荘-薬師峠間ではガスに巻かれルートファインディングに手こずるがガスの切れ間をついてルートを確認し下る。ここもまた目印に乏しい単調な平坦地ゆえ悪天候時には気を遣うところだろう。薬師峠から北ノ俣岳へ登り始めると雷鳥予報も馬鹿にできない。雨風が強まり、ヤッケをはじめとした装備の多くが濡れる。天候好転の様子もないため北ノ俣岳直下の平坦地に幕営。燃料を空焚きし装備を乾かすことに徹した。

⑦ 5月2日 3:00起床~5:00出発~6:30中俣乗越~8:30黒部五郎岳~10:20黒部五郎小舎~13:30三俣蓮華岳~14:00三俣山荘

 テントから出ると強風と雪によってアウターに白い霜が付く冬のような様相を呈している。視界が悪く、また稜線が広いため迷わないよう慎重に進む。テントから出た直後は悪天候であったが、中俣乗越あたりになると晴れ間が見えるようになり一安心する。しかし好事魔多し黒部五郎岳に向かって登り始めるとまたも雪に変わる。山の天気は変わりやすい。斜面は夏道が埋まり、アイゼンが気持ちよく利く単調な急斜面を延々と登り続けると黒部五郎岳山頂に到着。山頂では強風と雪のため写真だけ撮影しすぐに下山を開始する。下山はカールルートではなく稜線ルートを選択。下るにつれ天候が回復し緩んだ雪の斜面を黒部五郎小舎に向かう。小屋で小休止の後、三俣蓮華岳に登り始めるも夏道が完全に埋まっているため木々の隙間をジグザグと稜線まで登る。稜線に出た後も1, 2ポイントほど夏道が出ている程度なので雪庇を踏み抜かないよう進む。天候は完全に回復し、三俣蓮華岳山頂では360度の展望が得られた。三俣山荘への下りは急斜面であるが気温の上昇によって適度に雪が緩んでいたためスムーズに下る。2年生にとっても急斜面の下りを体感できる良い機会であっただろう。三俣山荘に到着後、昨日不十分であった物乾を効率に行うため冬季小屋を掘り出すも小屋内に6~7人テントを張るだけのスペースはなかった。残念無念小屋の隣にテントを設営。

三俣蓮華岳山頂にて。サングラスに好転した天候が窺える。

失意のテン場。防風ブロック作成に無念をぶつける。

⑧ 5月3日 3:00起床~5:00TS発~6:30鷲羽岳~8:30水晶小屋~10:30水晶岳~11:30水晶小屋~13:00東俣乗越~15:30野口五郎岳~15:40野口五郎小屋

テントから出ると空は突き抜きぬけるような快晴であった。鷲羽岳の登りは夏道が多く出ていたがその一部に雪が付いており、意外にもいやらしい登りであった。鷲羽岳山頂より歩いてきた稜線を眺めると黒部の谷を挟んだ向かいに室堂を望むことができる。ここまで1週間もかかってしまった。しばらく休憩した後ワリモ岳に向かい出発する。ここはワリモ岳直下の10mほどの雪の急斜面以外は完全に夏道が出ていた。ワリモ岳を越えると水晶小屋への道は多くが適度に締まった雪に覆われ、アイゼンを利かせ順調に登る。水晶小屋に到着後、体力を温存するためアタック装備に荷物を詰め替え、水晶岳へのピストンを開始する。多くは夏道通りであったが、1ポイント技術的には全く優しいが滑ると谷底まで滑落するような急な雪壁が現れたため、時間的に余裕もあることから2年生にfixを行わせる。ロープを残したまま山頂をピストンした。山頂で休憩後下山を開始しロープの回収を行う。スピードはまだ遅いがシステム等はよく理解しているようであった。水晶小屋に戻ったのち再度全装をパッキングし、東俣乗越に出発。小屋直下には夏道が出ており懸垂下降の必要はなかった。その後小ピークが幾重にも重なった狭い稜線上を登りつ下りつし緊張が強いられるような場面があったが2年生は怖がることなくスムーズに通過しており、アイゼン技能の飛躍的な向上がみられた。稜線から水晶岳を見上げるとそれまでとは大きく異なるいかにも脆そうな赤岩の荒涼とした東面が目に入る。火星にでも来た気分だ。東沢乗越に降りるとあとは穏やかな稜線を延々と野口五郎岳に向け登り続けるだけとなる。山頂に到着後直下の野口五郎小屋に至る。小屋が空いていたため、前日不十分に終わった物乾を行うため小屋を利用した。

鷲羽岳山頂より槍ヶ岳。東西北鎌尾根の全てを眺めることができる。

⑨ 5月4日 3:30起床~5:20出発~8:00烏帽子小屋~9:00烏帽子岳~10:00烏帽子小屋~14:30高瀬ダム下山

  最終日の朝も前日に引き続き好天であった。歩き始めると烏帽子小屋直下の斜面以外はほとんど夏道が出ており順調に進む。烏帽子小屋到着後水晶岳同様にアタック装備に荷物を詰め替え烏帽子岳に出発する。烏帽子岳直下まで進むと東面に登れそうな急な雪の斜面が現れたため緩んだ雪に足を取られぬようクライムアップを交え慎重に登り山頂に到着。山頂からの下りでは時間に余裕があるため2年生に懸垂下降をセットしてもらった。やはりスピードはまだ遅いが注意するポイントは良く抑えていた。烏帽子小屋に戻ったのち再度パッキングを行い、ブナ立て尾根の下降を開始する。上部は雪が良くついておりサクサクと下る。中部から下部にかけては雪が完全に緩み切り、苛烈な踏み抜きに体力が奪われる。登山口濁沢の水音が聞こえる頃になると尾根上の雪も解け切り、夏道上を進み登山口に降り立つ。気温が高いため衣類を調整した後、穏やかな河原と涼しいトンネルを抜け登山口から30分ほど歩くと高瀬ダム堰堤最上部にたどり着く。堰堤上まで道路が解放されているようなのでここでタクシーを呼び下山。途中大町温泉郷薬師の湯に立ち寄り1週間余の汗を流し、信濃大町駅にて解散。

烏帽子岳直下を登る。

高瀬ダムに降り立つ。久しぶりのアスファルトにご満悦。