1/15-18 八ヶ岳クライミング山行

1.対象:八ヶ岳 赤岳主稜、アイスキャンディー、阿弥陀北稜、石尊稜

2.日程:2021年1月15日~1月18日

3.参加メンバー:小野(4年CL)、浅川(5年)、真道(3年)、田代(3年)、小池(2年)、田中(2年)

4.概要:
1月15日 先発隊(小野、真道、田中)
文責:真道
8:00 八ヶ岳山荘 ~ 9:15 美濃戸山荘 ~ 11:00 赤岳鉱泉 ~ アイスキャンディ ~ 16:00 行者小屋TS

ドサッ、ドサッ、ドサッ。

寒空の下、静かな朝を迎えたはずの八ヶ岳美濃戸口の山荘前で、突如としてその静寂を破る大きな物音が響き渡る。

ドサッッ、ドサッッ、ドサッッ!

誰かが大量の荷物で膨れ上がったザックを、少しでも縮めようと懸命に地面に打ち付けているらしい。

その音は次第に力強さを増していく。

ドサッッッ!

音が鳴り止む。

しばらくしてそのザックの持ち主が言葉を発した。

「最~悪っ。」

見るとそこにあったのは、ザック内でパウチが破裂し漏れ出た中身のレトルトカレーがべっとりとこびり付いて茶色くなった荷物を片手に、顔を顰める田中樹の姿だった。

我々の八ヶ岳登攀山行はそんなスパイシーなハプニングから始まった。

先発隊 小野、真道、田中の3人は荷物をまとめ、八ヶ岳山荘を後にする。気温は-6℃。天気は良好。北沢ルートを経由して赤岳鉱泉を目指す。

部員にとって八ヶ岳は今回で今年度3回目だ。前回は昨年の9月末と10月末に来ている。お馴染みのアプローチルートだが、あたり一面の積雪は季節の移ろいを感じさせる。昨年は積雪量が極めて少なかったが、今年は度重なる寒波もあり例年並みの積もり方であった。

コースタイムにして3時間程だが、登攀具、幕営具、食料を詰めているため前回に比べて重い荷物を背負っての歩荷になる。2年田中の口からは重荷と長い道のりに対する文句が出る。対して小野さんは余裕そうだ。私ももうすぐ山岳部4年目になる身だが、この道は年々短く感じるようになり、今回もさほど苦痛には感じなかった。重荷と時間に脳みその思考ゲージが割かれることなく、気づけば1時間が経過しピッチが終わっている。

マインドの変化と季節の変化によって、目に映る景色が訪れる度に違って見える。そんなことを感じた北沢からの往路であった。

赤岳鉱泉に到着した。今年も立派なアイスキャンディが出来上がっている。雪は見飽きた節があるが、氷壁は未だにそのグレイシャーブルーと造形美からなる神秘的な容に心を惹きつけられる。

小屋で受付を済ませて早速キャンディに取り付く。

ここで今回から新しく実装した装備を紹介する。petzlのノミックだ。我が部ではアイスアックスはクォークを従来使っていたが、それと比べてノミックは、グリップ性能が高い。また大分軽量化されているようで、振り疲れを抑えられそうだ。しかし、軽い分的確に振り抜き正確に氷に打ち込むだけのスイングテクニックが必要になる。使いこなすにはもう少し練習が必要そうだ。

空いている上に天候もよい。後発隊のアイスキャンディーとは大違いだ。

我々はアイスキャンディで計3本のルートを登った。スラブ壁2本とバーティカル壁1本。スラブ壁はアックスとアイゼンワークに多少の粗さがあってもなんとか登れるが、バーティカルラインはスピーディーかつ確実にポインティングする技術が必要で、これが確立できるかがアイス上達の肝になりそうだ。シーズンパスも購入したので是非とも力を付けたい。

途中田中がオンライン授業を受けるため小屋に向かったがどうやら上手くいかなかったらしい。

コロナの影響で大学の授業は9割型オンラインによるリモート授業だ。学校に行かずとも単位が取れる可能性を秘めた、夢のような時代が到来している。

山に籠もりがちの山岳部にとっては非常にありがたい。対面で授業に出席せずとも、オンデマンドで配信される講義動画を後日受講すれば出席点を取ることが可能だからだ。レポート課題もスマホ一つ有ればオフラインで仕上げることができる。

しかしながら、これはオンラインシステムを上手く使いこなせた場合の話だ。通信環境が貧弱な山中では、ライブでの出席が求められる同時中継のオンライン授業とは非常に相性が悪い。通信圏外でインターネットに接続できなければ否応なしに出席点を落とすことになる。授業内課題なんて出された時は最悪だ。

いくらオンライン授業が普及したといえども、その恩恵を享受するには、山奥という特殊環境において戦略的にオンラインシステムを活用できるかが鍵になってくる。DX時代の潮流に乗り切れた者だけが、授業と山行の両立を実現し、悠々自適なマウンテンライフを送ることができる。

授業やバイト、就活など下界での活動との両立が難しい山岳部の活動だが、新しいテクノロジーとライフスタイルの発現は、我々の活動の在り方の幅を広げてくれる。活用しない手はない。

15時ごろに行者小屋まで移動してテントを設営する。今回はDUNLOPのテントを使用する。軽い上に設営が簡単で使い勝手がいい。天井が若干低いが防寒性能はまずまずだ。今後は積極的に使用したい。TSには水場があり、水作りが免除されたため田中は歓喜。検温しコロナ対策は欠かさない。本日の行動を終えた。

1月15日 後発隊(田代、浅川、小池)
文責:田代
自宅~小淵沢駅

この日は小淵沢駅で駅ビバをする予定だったので、各自準備を済ませ、小淵沢駅に集合する。田代はここでレーションと翌日の朝飯を購入していないことに気が付き、最寄のコンビニに向かうことにした。

現在の時刻は25時。スマホでコンビニを検索し、1.1km先にローソンがある事が判明した。これくらいだったら、と駅を出発する。すると100mくらい進んだところで目を疑う光景が広がっていた。GoogleMapが示す方向が漆黒の闇なのである。街灯ひとつない。「北杜市のインフラ整備はどうなってんだ」など闇に向かってボヤいても明るくなるわけでもない。諦めてスマホライトで道を照らしながら進む。決して山道を歩いているわけではない。民家が立ち並ぶ道であるが、ヘッドライト必須である。こんなところにコンビニがあるのかと疑いだしたころ、煌々と光る青い看板が姿を現した。不思議な頼もしさを感じる。買い出しを済ませ、帰路につく。あまりの暗さと静けさに恐怖を感じ、思わず駅まで走って帰ってしまう。下界なのにインフラが下界でない小淵沢駅の一角で就寝した。

1月16日 先発隊(小野、真道、田中)
文責:真道
5:30 起床 ~ 6:30 出発 ~ 7:30 赤岳主稜取り付き ~ 12:00 赤岳山頂 ~ 13:00 TS帰着

6:30アイゼンを装着しTSを出る。文三郎道3つ目の階段の終了点から赤岳主稜の取り付きに向かう。アプローチのトラバースは、脆い岩が露出した部分が若干緊張感があった。チョックストーン下が取り付きポイントだ。

支点に到着後ロープを出す。真道はロープをザックの奥にしまっていて、また急斜面での作業でロープをキンクさせてもたついた。天気は曇天だが、ビレイパーカーを着なくてもまあ耐えられるくらいの気温だ。風はやや強めであったのでゴーグルを装着した。

リードは主稜初手合わせの田中。1ピッチ目のCSのムーブがやや難だが、すんなり越えていく。しかし、ちょくちょく浮石を落としていたのでその点は後ほど注意した。その後の登りを見ていてもこのレベルなら登攀力自体は問題なさそうだ。ただ、支点の取り方に若干の不安が残った。まず取るランナーの数が少ない。また、支点に関しても強度的に怪しい支点の取り方が何度かあった。支点の確保や強度評価は知識のインプットとフィールドでのアウトプットを繰り返していくしかない。経験を積んでいこう。

ビビっていた主稜を乗り越えた田中(中央)の表情に安堵が滲む。

山頂はガスって景色ゼロ。強風のため写真だけ撮り速攻で下山。下山道は文三郎道。コロナ対策の検温はしっかりと。後発隊と合流したのち夕飯を食べ、本日は終了。

1月16日 後発隊(浅川、田代、小池)
文責:田代
小淵沢駅~茅野駅~八ヶ岳山荘~行者小屋~赤岳鉱泉(アイスキャンディー)~行者小屋

小淵沢駅6:46発の始発列車に乗り、茅野駅に向かう。毎山行、この朝の電車がきつい。眠い体にパンやおにぎりを詰め込み列車に揺られ、少々の気持ち悪さを感じながら登山口へ向かう。

始発列車に揺られ、茅野駅へ向かう。

八ヶ岳山荘で装備を整え、8:00に出発。美濃戸山荘までの道は車が多く通っているためか、凍っている個所が多く、非常に歩きづらい。9:00に美濃戸口に到着。小休止を挟み、行者小屋に向かう。この区間も凍結個所が多く、田代が滑って振り上げた足が小池の口に直撃するアクシデントが発生する。申し訳ない。途中から雪が降り始める。歩きづらさはさておき、順調に歩を進め11:30に行者小屋に到着する。先発隊のダンロップV6が張られているので、その隣にエスパースを設営する。その後、不要な装備を残し、12:30ごろ赤岳鉱泉に向け出発する。雪は次第に強まっているように感じ、今日赤岳主稜をアタックしている先発隊を思う。30分ほどで赤岳鉱泉に到着する。早速アイスクライミングの準備に取り掛かるが、アイスキャンディーで活動するための装備の基準があり、それをそろえてから活動範囲に入る必要があった。アイスクライミング用の縦爪アイゼンを二組持参していただけだったので、エリア内に2人入り、残り1人はエリア外で順番を待つ、という非効率な活動をせざるを得なかった。小池が2本、田代が2本、浅川が1本登攀したのち、行者小屋に引き返すことを決定する。30分ほどで行者小屋に到着。既に赤岳主稜をアタックしていた先発隊が帰幕している。先発隊のテントで炊事を行ってもらったため、帰幕後すぐに夕食を食べる。依然として軽い雪が降り続いており、翌朝には降り止んでいることを願いながら寝袋に潜りこむ。

1月17日 先発隊+後発隊(小池を除く) 
文責:田代
5:15 起床~6:30 出発~8:50 阿弥陀岳北稜 登攀開始~ 10:15山頂~ 11:30 行者小屋~12:00 浅川、田代 行者小屋出発~14:00 八ヶ岳山荘 

起床すると、雪が降り止んでおり、阿弥陀岳もテン場から見える。少々曇っているがアタック日和である。朝食を済ませ6:36、アイゼンをつけテント場を出発する。文三郎道分岐から1パーティー分の踏み痕があり、それをだどりながら進むがすぐに二人組のパーティーに追いつく。ラッセルを交代し稜線まで我々だけでラッセルを行う。田代と田中は初めてのラッセルであったため苦戦気味でありながら、全員で協力しながら稜線に出る。積雪は減少したものの依然ラッセルが必要である。徐々に積雪が減少していき、薄い積雪によりアイゼンの起き場所が難しい。雪の下の凹凸にアイゼンをひっかけながら登っていく。8:50、取り付きに到着。ここで追い抜いたパーティーを待ち、先に登攀を開始してもらう。その後、我々も登攀開始、先行パーティーは浅川、田代ペア、後続パーティーはリード田中、フォロー小野、真道である。9:40、田代、浅川パーティーが登攀開始。1ピッチ目浅川リード、2ピッチ目田代リードで10:15山頂に立つ。後続パーティーは安全環付きが凍結してしまい、登攀が遅れたが、10:30過ぎに全員で山頂に立つ。下りはロープを出して懸垂することも想定していたが、その必要はなく鞍部まで降りる。その後は夏道の東側の沢を一気に下り、行者小屋に帰還した。

なんでもないアプローチで吠える真道

田代と浅川はその後パッキングをし、下山開始。下山途中、田代が就職試験を受けている企業から電話がかかってくる。ギリギリ電波が届いたからよかったものの、行者小屋にいたら確実に対応することができなかっただろう。危ないところだった。

凍結した路面にツルツル滑りながら八ヶ岳山荘に到着する。温泉と軽食をとり、タクシーへ乗り込む。茅野駅で解散する。

1月18日 先発隊+小池 
文責:真道
5:15起床 ~ 6:30コンテ確認 ~ 7:00出発 ~ 8:00石尊稜取り付き~ 13:00石尊峰ピーク ~ 14:00TS

前日の阿弥陀北稜にて安全環付きカラビナが凍るトラブルがあったので、テント内で凍っていないかを事前にチェック。テントの外に出てから出発前にコンテの練習をする。ルート中間部分の雪稜歩行で使うことが予想されるのでそのシュミレーションだ。

アイゼンを履いて石尊稜へ。中山尾根を越え2本目の橋が架かった沢に入る。既にトレースは付いていたのでありがたく拝借。トレースは日ノ岳ルンゼ側からのアプローチであったのでそれに合わせる。沢から尾根へ乗り上げる際の斜面は急勾配であった。尾根上を10分ほど歩くとフェースの基部に二箇所支点があった。

今回は2パーティーで挑む。小野&小池ペアと真道&田中ペアの組み合わせ。先に小池がリードで登った。1ピッチ目終了点手前がややいやらしいが、アックスと灌木をうまく使って越えていく。田中も続いてクライムオン。同じく終了点直下で苦戦した。なんとかトップアウト。フォロー真道も登攀開始。技術的にシビアなルートであったことを考えると、田中が取ったランナーの数はやはり少ない。たとえ心許ない支点であっても取らないよりは確実にリスクヘッジになる。また、核心部に突入する前に立木にランナーを取れたのであれば、そうした方がより安全を確保できた。そのことをフィードバックとして田中に伝えた。

先行パーティーは既に2ピッチ目を終えているらしく姿は見えない。我々も急いで2ピッチ目をスタカットで進む。既にコンテに移行してもいい感はあったが、3ピッチ目も念のためロープを出す。4ピッチ目からは、ワンポイントでクライムアップを要する雪壁はあるが、アックスとアイゼンが確実に決まり落ちるリスクはほとんどないとの判断から、スピードアップのためコンテにモードチェンジ。トップは途中にランナーを取りながら最低限の安全を確保する。

切り立つリッジを渡る小池

先行パーティーのラッセルをありがたく頂戴しながら、3ピッチ目終了点から200m弱雪稜を歩いたところで上部岩壁の基部に到着。田中がリードでルンゼを越えていく。下部岩壁や赤岳主稜よりも露出度が高く、リードは恐怖感との戦いだ。大きなピナクルに支点を取り5ピッチ目終了。次がラストピッチ。技術的には難しくない。難なくフィニッシュ。ロープをたたみ、ピークまで100m弱歩く。1時間前に先行パーティーは終えていたらしい。写真を取り早々に下山。地蔵尾根から下った。

その夜、テントのキャパシティーの問題上、小池がツェルト泊になった。この決定をドMの小池くんに伝えるととても嬉しそうに喜んでいた。行者小屋前の軒下にツェルトを張る。黄金色に輝く、なんとも風通しの良さそうな立派な快適空間が出来上がった。

今日も今日とてコロナ対策の検温はしっかりと。day4はこれにて終了。

1月19日 先発隊+小池 
文責:真道
3:30起床 ~ 5:30出発 ~6:00 赤岳鉱泉 ~ 6:30 ジョーゴ沢F1~10:00 赤岳鉱泉発 ~ 12:30 八ヶ岳山荘

最終日の朝だ。この日はジョーゴ沢でアイスをしてから下山の予定だが、隊員の授業の関係上10時には下山を開始しなければならずあまり時間がない。それが故のこの時間での目覚ましである。

テントを畳み赤岳鉱泉へ向かう。アイスクライム装備以外を小屋前にデポしてジョーゴ沢に向かう。F1に到着。早速2パーティに分けリードで登る。F1はアイゼンワーク入門と言われているが、初リードの小池も難なく登る。

続いてF2。こちらは去年とは比べ物にならない立派な出来上がりであった。小野さんは中央からダイレクトに登っていく。続いて真道が登るがアクシデント発生。リーシュが足らずスリングで代用していたが、使い勝手が悪く干渉する。また、アイス用のアイゼンとプラブーツの相性が悪いらしく外れかける。地面がすぐ近くであったので戻って仕切り直し。

練習のためにスクリューをなるべく沢山打って登ろうと思ったが、一個一個打つのに結構な時間がかかる。技術的な問題はもちろん、氷の質の問題も少なからずあった。これは練習がいるなと痛感した。また、外したゴーグルの結露が氷付き曇って見にくくなる。

このように実際やってみると、装備や環境などアイスクライミングかつ冬山の特殊要因が登攀にかなり影響する。単に登攀力を鍛えるだけでなく、こういった周辺部分にも一つ一つ細かく注意していかなければならないなと感じた。これを知れただけでも意味ある時間であった。小池を引き上げた所でタイムアップ。50mダブルロープで懸垂をして赤岳鉱泉へ引き返した。

帰りも同様に北沢経由で。2時間ほどで八ヶ岳山荘に到着。風呂に入って汗を流した。これにて八ヶ岳登攀山行終了。お疲れ様でした。

5. 総括:
今回の山行目的は
 ①春山合宿に向けた登攀力の底上げ
 ②アイスクライミングのスキル習得と実践練習であった。

①に関しては、目的達成と言って良いだろう。2年生クライマー達がよく頑張った。反省点はいくつか見つかったが、何よりもミッションを完遂できたことは大きな成果だ。今回見つかった反省を次に生かしてレベルアップを目指して欲しい。特に田中は赤岳主稜の前夜寝付けないほど緊張していたが、今回の成功を是非とも自信に繋げて欲しい。とはいえ今山行で登ったルートはどれも入門でやっとスタート地点に立ったに過ぎない。2ヶ月後には春山を控えているし、来年以降も山を登る機会は無限にある。その先には海外遠征もある。今回の経験が自分の登りたい山を見つけるきっかけになることを願っている。山は登らされるものではなく自ら登り行くものだ。

②に関して、この時期にアイスクライミングを山行に組み込んだのは、シーズンインでなるべく早くに少しでもアイスクライミングに触れておく必要があると思ったからだ。授業期間であることや春山の準備山行があることを考えるとアイスクライミングに当てれる時間はそんなにない。一方で、アイスクライミングは決して蔑ろにはできない。海外登山での選択肢を広げるには必須のスキルであるし、何よりも道具の急激な進化によってトレンドとなっているジャンルだ。我が部においては、指導体制が整っていないのも相まって、部の人材に蓄積されているアイスクライミング技術は極めて貧弱である。このままではノウハウが下級生に継承されず、アイスクライマーが育つことなく絶滅してしまう危機感があった。山岳部の活動のあり方を広げる可能性を秘めたツールを失うのはあまりにも損失がでかい。今シーズン少しでもアイス技術を蓄積できるように早めに体験しておくことはマストであった。装備も買い足したので、今後できる限りアイスクライミング山行も組んでいきたい。

ここからは、個人的な感想を書きたい。

まず、今回感じたのは自分の冬山登攀の経験不足だ。よくよく考えると、私の冬期のクライミング山行は今回で2回目だ。1年の時は冬山縦走ばかりで冬期登攀山行には行ってないし、昨年は赤岳主稜に登った後はコロナで活動ができなかった。どれだけ無雪期のクライミングに行っても、冬期のクライミングは勝手が違う。もちろんロープワークなどの基本的な部分は共通するが、危険度は格段に上がるし、冬山という特殊な環境では考えることが段違いに多い。ロープからガチャまで全てが凍る。気象条件の過酷さは比べ物にならない。冬山縦走だけでなく、冬山での登攀の経験をもっともっと積む必要があると痛感した。また、もうすぐ入ってくる1年生には積極的に1年の時から主稜なり石尊なり冬期バリエーションの経験をさせてあげたい。

次に感じたのは、フォローがつまら無いというマインドになったことだ。今山行において基本的にリードは2年生が担当したので、私は最後のアイスクライミング以外ずっとフォローで登っていた。もちろん下級生の成長が第一優先であるが、個人的にはずっとフォローであったために山行が終わっても何か物足らなさを感じていた。以前は、登らされている感が強くリードクライムは恐怖とリスクが伴うのでフォローで登ることを好んでいた節があったが、1年間登攀の練習を積んできて自分なりに目標も見つかった中で、主体的に山に登りたいという気持ちが芽生えてきた。そんな中で、フォローで登ることだけでは自分の登攀欲を満たしきれ無いことに今山行を通して気づいた。この気持ちは大事にして、さらなるレベルアップにつなげたい。

今回の山行でも、隊全体を見ることを意識していた。小野さんが下す判断と自分が思う判断が一致するか、意識をしながら行動していた。まだまだ上級生から学ぶことがある。数ヶ月後には隊を率いることになる。今後も吸収できることはなるべく多く吸収したい。

今回の山行は序章であり通過点だ。我々が目指す目標は遥か先である。槍はもっと高い。劔はもっともっと高い。目標達成に向けて努力を怠らずに頑張ろう。

文責:真道

阿弥陀岳山頂に小池の姿はなかった。